生態学におけるFOSS4G利用 ~QGISを使った生態学研究の紹介~
はじめに
2010 年3 月15 日(月)~3 月20 日(土)に東京大学 駒場キャンパスを主会場として開催される日本生態学会第57回大会の自由集会として,「生態学におけるFOSS4G利用 ~QGISを使った生態学研究の紹介~」が開催されました。今回は,FOSS4Gの中でも,日本語化も進み,ユーザーフレンドリーなデスクトップGISの代表格であるQuantum GIS(QGIS)を主な例として,様々な生態学研究における実際の利用例を紹介させていただきました。大変多くの方にご来場いただき,本当にありがとうございます。当日配布したQGISのインストール用CD-ROMと同様のファイルは,こちら(QuantumGIS GUI日本語化プロジェクト)にて配布中です。
開催趣旨
発表資料:
デスクトップGISであるQuantum GIS(QGIS)は,FOSS4G(Free and OpenSorceSoftware for Geospatial)の一つであり,使いやすいインターフェイスとプラグインによる機能拡張が特徴である。さらに,有志の手でマニュアルやGUIの日本語化が行われており,利用環境が整えられつつある。本自由集会では,QGISの概要と日本語化プロジェクトについて紹介するとともに,実際QGISを使った研究事例を紹介することにより,生態学におけるGISの利用拡大に貢献することを目的とする。
日時:
2010年3月15日(月) 17:00-19:00
場所:
東京大学・駒場キャンパス 11号館1108号室(I会場)
講演者および発表概要:
- 嘉山陽一(OSGeo.JP&朝日航洋株式会社): 自由な空間情報利用のためのツールQGISと日本語化プロジェクトの紹介 発表資料:
QGIS(QuantumGIS)はオープンソースのデスクトップGISです。欧米を中心としたコミュニティの盛り上がりによって近年QGISの機能は急速に向上しています。APIやプラグイン作成のための仕様が公開されているため、QGISには多くの拡張機能が用意されています。GRASSやRといった他の解析ツールやOGCの空間情報に関するデータやサービスの標準のうちの多くをQGISで利用できます。GDAL/OGRやPostGIS、GEOSなど数多くのFOSS4Gの成果をQGISで利用できます。このような自由なGIS利用の世界コミュニティの動きに日本からも参加しようとする動きとしてQGIS日本語化プロジェクトを立ち上げました。今回はQGISと日本語化プロジェクトの紹介をさせていただきます - 大東健太郎((独)農業環境技術研究所): アメリカセンダングサの分布ポテンシャルの解析 発表資料(仮):
本発表は非GISユーザーが必要に迫られて、先達の助けを借りながらもフリーソフトウエアであるQGISとRを使って、ポテンシャルマップを描く、という事例報告です。本発表ではGPSデータを伴った分布情報を、GISデータ(土地利用情報、アメダスデータ)と結合させ、フリーの統計ソフトRに受け渡し、Rでモデル化を行った後に、QGISに戻す、という作業を行います。QGISのプラグインであるmanageRを使用することでQGISとR間の受け渡しはかなり簡略化されます。発表では比較的Rは使い慣れた人間にとってmanageRを使う上での注意点、メリットなどについても触れたいと考えています。 - 岩崎亘典・楠本良延・平舘俊太郎・稲垣栄洋・山本勝利: QGISを使った茶草場の歴史的変遷の定量的評価 発表資料:
茶栽培と深い関わりを持って維持されている「茶草場」と呼ばれる半自然草地には,希少な草本生植物が残存する事が明らかになりつつある。この茶草場の種多様性の成立を理解するためには,その歴史的変遷を明らかにする必要がある。本発表では1889年測量の1/2万地形図,1962年および2007年の空中写真から,QGISやGIMP2などのオープンソース・ソフトウェアや基盤地図25000WMS配信サービス等を使って,歴史的変遷を定量的に評価するためのGISデータを作成するための手順について解説する。 - 伊藤健二((独)農業環境技術研究所): 関東地方における特定外来生物カワヒバリガイの分布状況の把握とデータの共有: MacユーザーのGIS初心者がQGISで分布データを管理するに至るまでの道のり 発表資料:
GISを使ったことのない研究者にとって”GISを使う”ことのハードルは未だに高い。昨年行われた生態学会の自由集会「生態学におけるFOSS4G利用の最前線」においても、アンケートに回答を寄せた方の約半数が「GISを使ったことがない」と回答しているのはその現れだろう。GISを使って得られる様々なメリットについては知識としては知っていても、実際の仕事に使うには至っていない…それはごく普通にみられる光景だ(と思う)。こうなる原因の一つとして、「GIS使えない人」が「使う人」になる、きっかけやメリット、苦労やドタバタがあまり語られていないことがある(と思う)。
演者は「特定外来生物」に指定されているカワヒバリガイの分布拡大や被害拡大を防ぐために、その現状把握や拡大ルートの推定などを研究してます。かくいう演者も「GISを使ったことのない研究者」でしたが、2009年になってそれまで手作業で管理(地図に印を付けてバインダーに束ねる、というレベル)していたカワヒバリガイの生息分布データを、エクセルとQGISを使って管理、公開(共有)し始めました。講演では、半年前までGISを使ったことのなかった初心者が、どのようなきっかけとドタバタを経てQGISを日常業務に使うようになったのか(現在もドタバタと使っているのか)のか、そしてなにより導入によって得られたメリットはどんなものだったのかについて、なるべくそのままご紹介します。 - 今木 洋大(NOAA, Northwest Fisheries Science Center ): 組み合わせて作るオープンソースGIS環境-鮭科生息地解析を例として 発表資料:
オープンソースGISを使うことの強みの一つは、自分の研究の必要に合わせ自分なりに地理情報解析を行う環境を作り上げられることである。特に、QGISとPostGISの組み合わせはデータの一元管理、ジオメトリー操作、空間クエリーをローカルおよびサーバ環境で可能にし、さらにRを加えることにより、最新の統計手法によるデータの解析結果を効率的に地図表現することができる。環境修復を目的とした米国コロンビア川における鮭科生息地解析におけるオープンソースGISツールの活用について話題を提供する。また、PostGIS、GeoServer、GoogleEarthの組み合わせによる、フィールドでのオープンソースGISの活用についても報告する。